保阪正康『陸軍良識派の研究』

 帝国陸軍にあって理性的な言動のあった人物の評伝。

 昭和初年以降、組織としての帝国陸軍が理性的に機能したとはいいがたい。
 荒木貞夫・真崎甚三郎ら皇道派将官に理性が存在したとは思えないし、統制派その他の将官の多くも、満州事変以降の戦況に対し理性的な戦略を描けていたわけではなかった。

 組織として理性的に機能しないからといって、軍人たちが非理性的な人ばかりだったわけではない。
 本書に登場するのは、昭和陸軍の良心を証すと著者が考える人々である。
 この人々の存在は、昭和陸軍にとって一縷の光明であるが、陸軍や政府の議論に理性的な判断を貫けたわけではなかった。

 良識派の中に石原莞爾が挙げられているのに違和感もあった。
 佐高信氏は『石原莞爾』で、石原の言動の欺瞞性を衝いておられる。
 しかし、理性的にものを考えない多くの軍人たちと比較すれば、石原の立ち位置が群を抜いているのも、事実である。

 本書に登場する軍人たちを美化もせず、斬って捨てもせずにリアルに見ていく姿勢に共感する。

(ISBN978-4-7698-2450-3 C0195 \752E 2013,7 光人社NF文庫 2018,2,2 読了)