美濃部亮吉『苦悶するデモクラシー』

 主として大正から昭和戦前期にかけての学問の自由に関わる諸事件を略述した本。

 とりあげられているのは、森戸事件、滝川事件、天皇機関説事件、矢内原事件、教授グループ事件(人民戦線事件)、津田左右吉事件で、教授グループ事件では著者自身が逮捕、投獄されている。

 近代の学問が官学として出発したのが大きな原因だろうが、「日本」の、特に社会科学系の学問は、自立性に乏しかった。
 権力の意向に忖度することにより、内容が変幻自在な学説など、論理的に存在し得ないはずなのだが、むしろそちらのほうが普通だったようだ。

 そうした中で、権力によって学問が歪められてはならないという至極まっとうな学者たちが、権力によって大学を追われた。
 許しがたいことであり、そのような社会には背を向けてしまいたくなる。

 学問の自由を保障した憲法を持った今、学問に対する抑圧の歴史を学ばねばならない。

 軍を含む権力・政党・メディアによるバッシングの中で、本書に登場する学者たちは健闘されたと思う。
 一方で、大学内部にありながら、これらの教授たちを叩こうとした学匪たちのことも、忘れてはいけない。

 近代史を学ぶ者にとって、必ず読むべき本だと思う。

(1973,9 角川文庫 2017,9,28 読了)