加藤陽子『満州事変から日中戦争へ』

 「シリーズ日本近現代史」の第5巻。
 タイトルの時期の国際関係と国内政治について、新たな論点を提起した本。

 一つは、南満州における「日本」の「特殊権益」が既得権だったかどうかである。
 「日本」は、これらを欧米によってすでに承認されていたと主張したが、欧米は必ずしもそう考えていなかった。
 中国がそれを否定していたのは、もちろんである。

 こうした状況を打開するために、「日本」軍は、何らかの軍事的な動きを必要とした。
 最初の動きは、「日本」の傀儡的存在だった張作霖の爆殺だった。
 この事件を契機に、軍事衝突を引き起こし、満州占領に持っていく目論見は、うまくいかなかった。

 しかし、同様の謀略だった柳条湖事件は、関東軍の主導により軍事衝突化し、関東軍・朝鮮軍も独断行動を始めるなど、政府のコントロールが崩壊した状態で満州の軍事的占領が実現し、「日本」は傀儡国家満州国を成立させた。
 蒋介石政府は、「日本」との全面的な軍事対決を避け、国際連盟に提訴して、「日本」の不当さを訴える戦術にでた。

 英米などに「日本」との妥協を探る動きも存在したが、妥協しなかったのは「日本」の側だった。
 「日本」は、国際連盟を脱退し、世界から孤立した。
 殆どの新聞は、「日本」の言い分のみを書き立てて、「国民」を軍の側に誘導した。
 じっさい、満州への投資によって、昭和恐慌により破滅的な状態だった日本経済は、ひと息つくことができた。

 満州を事実上領土化すると、中国との国境をいかにして確保するか、およびソ連との戦争にいかに備えるかという問題が生じた。
 そこで今度は、華北を「日本」の勢力下に入れて緩衝地帯化する「華北分離工作」が考え出された。

 盧溝橋事件が起きる半年前に中国では、西安事件が起き、それまで中国共産党との内戦を戦っていた蒋介石は国共合作に転じた。
 共産党も、コミンテルンの指示により、蒋介石との連携を模索しおり、これで中国は、対日戦争を戦うことのできる国内体制を整えることができた。

 以上が本書のサマリーである。

 新たな論点を歴史叙述に加えようとする本なのだと思うが、近年の歴史書らしく、叙述は無味乾燥である。
 どうしてそうなってしまうのか、その点は、ちょっと理解できない。

(ISBN978-4-00-431046-4 C0221 \780E 岩波新書 2017,8,25 読了)