半藤一利・ 戸高一成『日本海海戦かく勝てり』

 日本海海戦の勝利をめぐる戦史家の対談。
 戦闘の経過を客観的にあとづけている。

 制海権が重要な意味を持った明治の戦争だが、八幡製鉄所がまだ本格的に稼働しておらず、「日本」の軍艦はすべて購入品であり、しかもうち2隻は購入したばかりでまだ届いてもいなかった。
 韓国・満州をめぐる争いだったから、戦場は東アジアになる。
 ロシア海軍の太平洋艦隊はウラジオストクと旅順に駐留していたが、日本軍をはなはだしく侮っており、バルチック艦隊の出動を余儀なくされ、同艦隊は喜望峰廻りで日本海をめざすという困難を強いられた。

 戦争は運が結果を左右する部分も大きい。
 バルチック艦隊が日本海に入るのに津軽海峡でなく対馬海峡を通ったこと、第二戦隊が臨機応変の行動をとったこと等は、「日本」にとって幸いした。

 日本海海戦自体は「日本」軍の圧勝に終わったわけだが、国力には圧倒的な差があったから、日露戦争全体としては、「日本」にとって薄氷ものの終末だった。
 ポーツマス条約が「日本」にとって百点満点の内容だったにもかかわらず、国内で不満が爆発したのは、日清戦争以来、政府・マスコミによる戦勝報道、国家意識をテコにした増税政策に原因がある。

 日清戦争同様に、勝ったことによって失ったものが、あまりにも大きすぎたと言える。

(ISBN978-4-569-67818-4 C0130 \629E 2012,5 PHP文庫 2017,7,10 読了)