鳥巣建之助『人間魚雷』

 海軍特攻の一環だった回天作戦担当将校による作戦の全体像。
 著者は、作戦自体に対しては否定的であると同時に、作戦をより効果的たらしめるという観点から、軍令部の考え方には批判的である。
 なお著者は、海軍反省会でも、軍令部の責任を追及する立場から発言している。

 回天作戦が命令されたのは、1944年の早い時期だった。
 軍令部内で作戦立案に動いたのは、黒島亀人だった。
 人間魚雷は、帝国海軍の正式な命令として採用された作戦だった。

 搭乗員は志願によって募集され、その中から選抜されたが、作戦内容が秘匿されていたため、どのような作戦に従事するのかわからない状態での「志願」だった。
 出撃すれば帰還できない作戦だが、搭乗員の中に不満や動揺を持つ人はいなかったと書かれている。

 本書には搭乗員たちの略歴や遺書の本文などが詳しく紹介されている。
 そこから若い命を散らした搭乗員たちに対する、著者の愛惜の情を感じるのだが、「遺書」や陣中日誌のようないわば公的な書類に、搭乗員たちの本当の思いは、表出されないだろう。
 しかし、二十歳前後の多くの若者たちが、自分の命を散らすことで、国の役に立とうとしていたのは、事実だろう。

 搭乗員の純粋さを十分に認めた上でも、作戦自体の無意味さは否定できない。
 存在してはならない作戦であり、罪のない若者を殺した責任は、追求されるべきである。
 戦死・殉職(訓練中の事故死者も多い)した人々の命が無駄だったというのではない。
 彼らは、なにもそんな形で死ななければならないはずはなかった人々なのだ。

(ISBN4-10-349101-9 C0095 \1300E 1983,10 新潮社 2017,3,11 読了)