大貫健一郎・渡辺考『特攻隊振武寮』

 特攻隊生還者とNHKディレクターが、特攻隊と生還者収容施設である振武寮の真実を語った書。

 特攻隊はしばしば、美化して語られるが、この作戦の本質を一言でいうなら、「ずさん」である。

 この作戦によって戦局が転換する可能性はまったくなかった。
 むしろ、破滅に向かう上で、「軍はこれだけ頑張っているんだ」という「言い訳作り」的な作戦だったようにみえる。

 彼らが搭乗した機体は、整備不良で飛べなかったり、かろうじて飛べる程度の不良機だった。
 特攻は、帰還を前提にしない作戦だから、優秀な機体を使うわけにはいかなかった。
 とはいえ、不良機に乗れと言われる隊員たちは、情けなかっただろう。
 にもかかわらず、飛行中のエンジン停止などにより、不時着を余儀なくさせられた隊員は、「弱虫」「非国民」と罵倒され虐待された。

 「日本」軍は使用に耐えるレーダーをもっておらず、目的地である沖縄周辺の気象状況さえ、全く不明なまま、隊員たちを突っ込ませた。
 沖縄周辺の天候が悪ければ、敵の艦船を発見することもできず、迷走するしかないにも拘らず。

 機体の軽量化のために無線機や機関銃を取りはずしているから、特攻機は、敵の戦闘機と遭遇しても戦うすべを持っていない。
 重い爆弾を携行しているから、機体の動きは緩慢で、逃げることさえできず、特攻機は、容易に撃ち落とされる。
 まして、アメリカ軍は最新鋭のレーダーを使って、特攻機の動きを完全にモニタリングしていた。

 隊員の多くは学徒動員で招集された学生たちだった。
 短期間の訓練で操縦に習熟させるには、優秀な学生が好都合だったのだろうか、百戦錬磨の航空兵に比べれば、練度は不十分だった。
 ほとんどの隊員は、出撃時に初めて、重い機体を操縦して長距離の低空飛行を経験した。

 生還者の殆どは、事故により突っ込めなかった人々だったが、彼らは、生還しないことを前提に出撃したから、生還後は、振武寮に軟禁され、徹底的な虐待を受けた。

 本書は、特攻隊員管理に従事した将校や将官にも、間接的ながら取材している。
 彼らに何らかの責任があるのは間違いないが、究極的には、システムの問題だ。
 システムの上位にあって、問題の原因を作った者、問題を見て見ぬふりをしたり放置した者の責任を、曖昧にしてはいけない。

(ISBN978-4-06-4215516-8 C0095 \1800E 2009,7 講談社 2017,2,10 読了)