山と渓谷社『ドキュメント御嶽山大噴火』

 2014年9月に多くの犠牲者を出した御嶽山噴火をめぐる報告。

 犠牲が拡大した最大の要因は、噴火の可能性に関する情報がほとんど存在しなかったことだろう。
 じつは噴火の約2週間前に、火山性地震が観測されてはいたが、それが噴火に結びつくものかどうかについては、何も言われておらず、噴火警戒レベルは1で、「平常」と評価されていた。

 火山の噴火予知がいかに困難であるかということがわかる。

 被害を拡大させたもう一つの要因は、今回の噴火が登山者が集中するハイシーズンの、好天日のお昼前に起きたということである。

 厳冬期の御嶽山に登ろうという人はほとんどいないし、悪天であれば登山者は少なかっただろう。
 また夜間に噴火したのであれば、登山者はすべて屋内にいたはずで、被害者はほとんどいなかったと思われる。

 登山者にとって噴火という事態は全く想定外であり、対処のしようがない。
 ヘルメットをかぶっていれば何人かは助かったのではないかという意見もあるが、仮にそうだとしても、噴火という事態が想定されるのであれば、そもそも最初から山に登らなければいいわけで、あまり説得力のある意見ではない。

 しいて言うならば、噴火可能性のある火山に登る際には、噴火が起きることを前提にヘルメットをはじめとする装備を用意し、噴火の際にどのように行動するかをシミュレートしておくことくらいは必要だろう。

 一般の登山者が登山に際し、そこまで用意周到であることはありえないから、該当の山域を管轄する行政・警察あたりが、ある程度の強制力をもって登山を管理するほかはない。

 現在、もっとも危険な(登山者がもっとも無防備だという意味で)活火山は富士山だと思われるが、ここでは今、なんの危機管理も行われていない。
 万一の事態が最悪のタイミングで起きたら甚大な被害が起きるのがわかっているのに、なんの手も打たれていない。

 不思議なことである。

(ISBN978-4-635-51024-0 C0275 \800E 2014,12 ヤマケイ新書 2016,7,20 読了)