佐高信・岸井成格『政治原論』

 『保守の知恵』に先行する、二人のずっしりした対談。
 第一次安倍政権の評価がメインである。

 第一次安倍政権の瓦解から第二次安倍政権の成立まで数年間のブランクがあったわけだが、安倍晋三氏の基本路線は変わらなかったようだ。
 第一次政権の最大の「成果」は、教育基本法を改悪したことで、それは教育現場を統制し、「国民」の意識を偏狭なナショナリズムに誘導するうえで、大いに機能しつつある。
 安倍晋三氏にとって、第一次政権での蹉跌はよい経験として消化されているようだ。

 この10数年みたところ、安倍氏は、憲法改悪をライフワークとしていることがうかがえる。
 問題は彼が、いかなる動機から、どのような人びとの後押しによって、どのような戦略で改憲を行おうとしているかである。

 岸井氏の2006年時点の安倍氏に対する評価はさほどきびしくない(とは言え安倍氏が改憲を視野に入れていることと教育基本法改悪を狙っていることを指摘している)。
 それを岸井氏の見通しの甘さと貶すのは正しくない。
 氏は、政治家を政治的な動きの中で捉えようとしている。
 戦後政治史を眺めてみると、タカ派政治家がタカ的役割ばかり演じるわけでない。

 安倍晋三氏とその取り巻きたちのナショナリズムがどのようなものなのかは、分析の価値がある。
 しかしそれ以上に、結果を十分承知していながら、あらゆる陰謀と術策を弄して「国民」を欺きつつ、「日本」を政治的・経済的にアメリカ資本の市場化する理由について、両氏がどのように考えておられたのか、知りたかった。

(ISBN4-620-31786-1 C0036 \1500E 2006,11 毎日新聞社 2016,3,2 読了)