村井康彦『出雲と大和』

 出雲に存在した小国家が東遷して邪馬台国となったと主張する書。

 出雲政権の存在については、ほぼ疑う余地はないと思われる。
 本書は、出雲政権が日本海を東に向かい、丹後あたりで上陸して大和に定着したというのだが、なかなか楽しい空想である。

 一方著者は、邪馬台国連合はヤマト政権に連続しないとも主張する。
 記紀にいう神武勢力が、旧邪馬台国連合=大和旧政権=旧出雲政権を打倒してヤマト政権になったという展望である。
 神武東征神話に、何らかの史実の反映を見るという方法は間違っていないと思うが、著者は、九州にいた神武がなにものであり、どのような目的で東進したのかについて全く説明しておらず、やはり楽しい空想という他ない。

 記紀を中心とする文献史料を前提にするとやはり、古代史を発想する自由が制限されてしまうのである。
 古代史は、まず天武の呪縛から脱却すべきだろう。

 一方著者は、出雲残存政権が引き続きヤマト政権に匹敵する実力を持っており、何らかの緊張関係が起きたのちヤマト政権が上位に立つ合意がなされたものの、豪族連合たるヤマト政権の中枢部に、出雲政権出身人物が存在したところまでは、「出雲系神社」の分布などを論拠としており、説得力がある。

 岩座信仰や製鉄技術など、出雲政権とヤマト政権の重なる部分について丹念かつ自由に見ていくことによって、ヤマト政権の実像について、より楽しい空想が可能になるのではないかと感じる。

(ISBN978-4-00-431405-9 C0221 P840E 2013,1 岩波新書 2016,3,2 読了)