佐高信・岸井成格『保守の知恵』

 保守=自民党が「反動」で、革新=「進歩」という発想は、あまりに粗雑で現実を分析する切り口には、とうてい成り得ない。

 「革新」の存在意味がないというわけではない。
 しかし、政権を担ってきたのが自民党だったのは事実である。
 自民党は改憲を目的とする政党だが、安倍晋三以外の首相は、改憲に踏み出さなかった。

 アメリカに従属する姿勢は歴代政権に共通するが、濃淡の差はあれ基本的には、「日本」の自立性に関する最後の一線を守ろうとしてきたと評価できると思う。

 「戦後70年」をグローバルに総括するならば、平和憲法を守り、「日本」の経済的繁栄を追求し、それを実現してきたのは他でもない、自民党政権だったのである。
 「革新」勢力の闘いによって平和が維持されてきたと強弁するのは勝手だが、政権を担ってきたのが自民党だという事実は揺るがない。
 この事実が「国民」に対し、「自民党の政権担当能力」への信頼性を担保している。

 小泉純一郎首相が「自民党をぶっ壊す」と叫んだとき、彼が何をぶっ壊そうとしているのか、わかっている人は少なかっただろう。
 多くの人は、官僚と結託し既得権益にしがみつこうとする金権政治の打破をこそ期待しただろうが、小泉氏がぶっ壊したのは、自民党内の意見の多様性やバランス感覚を持った「長老」たちの影響力などだった。

 小泉氏にはまだ残っていた理性や「日本」の自立性へのこだわりなど、全てをかなぐり捨てて、アメリカの影の支配者である各種ファンドや多国籍企業の株主たちへ奉仕することと引き換えに、平和「国家」をぶっ壊そうとしているのが、安倍晋三氏である。

 安倍政権は、中央銀行・マスメディア・司法・ネットメディアを隠然・公然と支配することによって「国民」をマインドコントロールし、歪んだ選挙制度を最大限利用しつつ、多数議席をかすめ取って戦後自民党政治が維持してきた「国家の形」を変えようとしている。

 戦後もっとも陰険で危険な政権を打倒するために、あらゆるムーブメントを結合すべきである。

(ISBN978-4-620-32167-7 C0036 \1500E 2013,3 毎日新聞社 2016,2,23 読了)