藤田紘一郎『こころの免疫学』

 ヒトの身体における、精神を安定させる機能と免疫機能とが、腸の状態と連動していることを説いた本。ある程度専門的である。

 今の時代の「学」の特徴の一つは、ものや事象を要素に細分化することによって把握するというやり方である。

 物質を原子や素粒子の単位で把握し、その性質を知るなどはその例で、それは原子力の開発に生かされているのだが、原子力自体はヒトの歴史上何の役にも立たないばかりか、ヒトを生存の危機に陥れる役割しか果たしていない。

 植物の成長に必要なのは窒素・リン酸・カリとその他のミネラルだと教えられるが、それらの無機物だけで育った植物はおそらく、見た目はともかく、本来の健康な姿とは似ても似つかぬものだろうと思われる。

 この場合、もっとも重要なのは土壌中の生態系の健全さだということは、『有機農業原論』などによって明らかである。
 すなわち、土壌中の小動物・微生物によって有機物が適宜分解され、多からず少なからぬ無機栄養物が提供されるとともに、根系が成長するのに適した状態であることが、作物たる植物が健康に生育できる環境である。

 ヒトが健康であるのに必要な食べ物も、健康な作物であり、細分化された個々の栄養素ではない。
 栄養素だけ摂取すれば健康に生きることができるわけではない。

 本書は、心の健康や免疫系に働くホルモン類の動きをかなり詳しく解説している。
 人体は、精巧に組み立てられた巨大な世界であり、脳という司令塔からトップダウン式に動いているわけではなく、細部同士が連携しつつ、全体的なバランスを構成して動いていると、本書はいう。

 人体の正常な維持にもっとも重要な役割を果たしている免疫系は、腸内環境と深く関わっているということが説かれているのだが、この説は、人体そのものがひとつの生態系だという考えを前提にしている。

 ヒトの存在が地球・地域の生態系の一環であり、ヒトの身体もそうである。
 この事実は否定しようがないのに、現代科学が必死になって人類滅亡の道を進もうとする理由がわからない。(ホントはわかっている。「カネのため」である)

(ISBN978-4-10-603684-2 C0347 \1000E 2011,8 新潮社 2016,1,26 読了)