鳥越憲三郎『古代朝鮮と倭族』

 古代に朝鮮半島南部から日本列島一帯に住んでいた人々を「倭族」と捉え、古代朝鮮における倭族の足跡を、民俗の中に探った書。

 騎馬民族征服王朝説は、5世紀ごろにおける東アジアの動乱の中で南下してきた騎馬民族がヤマト政権を形成したと考えるが、それ以前の倭人については、詳細な論証はされていない。

 本書は、騎馬民族征服王朝説と矛盾するものではなく、いわゆる弥生人のルーツを考えるときに、重要なヒントを提供してくれる。

 著者によれば、倭族は長江上流域にいた人々で、下流部から山東半島に移動し、そこから朝鮮半島南部に移動してきたものだという。

 朝鮮半島に到達した彼らが建てた「国」が辰国である。
 辰国は、国としての形を整えて馬韓となり、弁韓と弁辰を分立させる。

 辰国への統合を嫌う一部は小国連合としての伽耶を形成した。
 この点については、騎馬民族説と矛盾する。
 また、列島に渡来したのがいかなる人々か、それがいつ頃なのかについては、特に言及されていない。

 朝鮮半島にはすでに、北方系のワイ族・パク族が先住しており、倭族は彼らと住み分ける形で、半島南部に定着した。

 扶余系の人々によって馬韓は滅ぼされ、百済となった。
 辰韓は新羅となった。

 倭族についての著者の立論は、おおむね以上である。

 本書は古代朝鮮史についての論究が中心なので、「日本史」との整合性がほとんど説明されておらず、倭族と列島民との関係にもほとんど言及されていない。

 弥生人が倭族であることは記されているから、倭族の一部である弥生人が「日本人」となり、列島という閉じられた空間で独自の文化を形成したと考えているのかもしれない。
 そのような考え方も成り立ち得ようが、著者の倭族論を敷衍することによって、三韓時代や辰国とヤマト政権や記紀に記された古代「日本」史の諸事件等をどのように意味づけることができるかが知りたいところだ。

(ISBN4-12-101085-X C1221 P660E 1992,7 中公新書 2015,12,25 読了)