青木理『日本の公安警察』

 「日本」の公安警察の実態と歴史を概観した書。

 公安警察は合法・非合法活動によって、主として日本共産党や極左グループの情報収集を行っている。
 その実態が明らかになることはほとんどなく、国民にほとんど意識されない存在である。

 日本共産党幹部宅盗聴事件の際に、その非合法活動が露見した。
 その後の裁判において、盗聴犯罪が事実認定されても、組織としては、犯行の事実を認めていない。
 国民の視野から徹底的に隠蔽し、その存在を意識させないのが、この警察の特徴である。
 非合法活動が露見しても、実行部隊が処罰されることはほとんどなく、菅生事件の実行犯のように、むしろ警察内で出世した挙句、関係会社に天下りまでした例もある。

 公安警察は、監視対象の組織に内部スパイを送り込んで情報を集めているが、その人物が逆スパイだという可能性もある。
 革マル派と公安警察の関係は、ちょっと理解し難いものがある。

 「日本」の公安関係部署は、公安警察以外に公安調査庁と内閣調査室がある。
 このあたりはさらに胡散臭い組織である。

 盗聴法や秘密「保護」法によって今まで非合法とされてきた権力犯罪が合法化されたことの問題も重大ではあるが、ここではおいておこう。

 公権力に関わっているわけではないから根拠をあげることができないのだが、自分としては以下のような疑念を持っている。

 インターネット上には、匿名で自分の意見を表明できるスペースが数多く存在する。
 それらのスペースで表明された意見が誰によって書き込まれたのかを突き止めるには、一般的に公権力の介入なしには不可能である。

 かつては、新聞投書など以外には困難だった意見表明へのハードルが、匿名性の保障によってほぼ取り払われたと言える(うかつな官僚や政治家がSNSでしくじることはしばしばあったが)。

 世論形成に一定の意味を持つと思われる例えばヤフコメに、公安関係者が組織的に書き込みを行うことは、制度上可能である。
 現に、原発に批判的な個人・団体のサイトの情報収集などは、税金を使って行われている。

 公権力が一般人を装って世論誘導を行うことは、違法行為に近いと思われるが、民間にそれを検証するすべはない。
 権力に役立つためなら手段を選ばない公安関係者がそのような半非合法な活動に手を染めていないという保証はない。

 この疑念は、政権交代によって制度が明らかになるか、強力な調査権をもって予算の使われ方を徹底的に検証する以外に、解明のしようがないと思われる。

(ISBN4-06-149488-0 C0236 \680E 2000,1 講談社現代新書 2015,7,2 読了)