佐野三治『たった一人の生還』

 レースのさなかに荒天のため船を失い、仲間を失いながらも生還したヨットマンの手記。

 記述は淡々としているが、そこで語られているのは壮絶な記録である。

 遭難には原因があるはずなのだが、その点についてはあまり饒舌でない。
 しかしこういう書物には、それがもっとも必要だとは思う。

 水と食料が欠乏している上、救出への見通しがまったくないという絶望的な心理状態の中で、冷静かつ適切な言動を維持するのは困難なことだろうが、生死を分けるのは、そこだろう。

 人には、命があるかぎり生きる義務がある。
 この本からは、そこを読み取るべきだろう。

(ISBN4-10-38101-1 C0095 \1300E 1992,9 講談社 2015,6,24 読了)