佐高信『電力と国家』

 電力事業を国家が管理するか、民間事業者が行うのかをめぐる制度と議論の流れをまとめた書。

 民間事業として出発した電力事業は、15年戦争のさなか、電力供給が逼迫する中で国家管理下におかれた。
 その目的はもちろん、総動員体制のもと、民間需要を抑制して軍需優先に電力を供給するためである。

 経済再建が課題となった戦後の時期に、電力事業をどう再建するかをめぐって、再び官民が激突した。
 ここで民の立場を貫いたのが、本書の主役というべき松永安左エ門だった。
 現在の民間九電力体制は、彼の手で確立された。

 官僚にとって、電力を国家管理のもとにおきたいという衝動は常に存在する。
 それは利権を伴い、官僚たちに天下り先を提供する、美味しいインフラである。
 もちろん、例えば戦時体制に、優先的な供給先を選ぶ権限があれば、企業の死命を決することもできる。

 松永や木川田一隆といった経営者について著者は、市場経済に委ねることによって健全な電力事業を育てることを意図していたように書いている。

 民間事業としての九電力体制は作られたが、現在の電力会社は、通産官僚・政治と一体化し、経営的に国家の保護を受け、国策を忠実に実行する一方で、利益は株主に還流させ、事故の責任はとらないとう、最悪の企業である。

 松永らが構想していた電力事業はどのような形なのか、今ひとつイメージできないが、資本性悪説(資本は所詮私利のみを追求するものであり公的利害など考慮しない)に立てば、形がどうあれ、電力事業が資本と官僚の食い物と化してしまうのは、避けられなかったのではなかろうか。

(ISBN978-4-08-720613-5 C0231 \680E 2011,10 集英社新書 2015,6,11 読了)