佐高信『石原莞爾』

 石原莞爾の言行を洗いなおした書。

 石原莞爾が満州事変の計画者であることは否定しようがないのだから、この人物を偶像視する発想が成り立つわけがないのだが、どうもそんな石原伝説が存在するらしい。

 謀略の上に起こされた満州事変を、日本の領土だった朝鮮半島を保安するための自衛のための戦争だという論理自体、植民地朝鮮という不義・不正を前提としているのだから、そもそも成り立つ話ではない。

 石原が説いた「五族協和」は、他の植民地主義者の論と比べて多少、各民族の自立性を尊重しているかの味つけがなされてはいるものの、満州に対する「日本」の利権を全うすることを目的とする点において、成り立たない。

 日中戦争に対し石原が「不拡大」を唱えたというが、日中戦争自体、満州事変の結果である「満州国」を保安する上で必然だった。
 「満州国」の問題を解決する唯一の方策は、「満州国」の放棄以外にはなかったし、満州放棄は朝鮮半島の放棄を連鎖しただろうが、それこそが自体の根本的な解決方法だった。

 著者は、石原の「不拡大」論や東條英機との対立等を「放火犯の消火作業」と評しておられるが、それらは「消火作業」でもなんでもなかったのである。

(ISBN4-06-273814-7 C0195 P571E 2003,8 講談社文庫 2015,2,24 読了)