青木理『抵抗の拠点から』

 『朝日新聞』バッシングとは何なのかについて、『朝日』関係者へのインタビューをもとに考察している。

 『朝日』バッシングの柱は、1982年に従軍慰安婦に関連して虚偽と思われる証言を報道した件と、2014年に福島第一原発の吉田元所長の聴取調書のスクープで調書の内容を不正確に報道した件の二つである。
 「歴史認識」と「原発」は、「日本」の支配勢力が、今後の国家の枠組みの基本と考えている重要なテーマだと想像する。

 1990年代以降、民衆の歴史認識を変えていこうというとする、あからさまな動きが組織的に始まった。
 産経新聞系のメディアなどに登場した論点は、明確な根拠があるとは思えず、以前から存在する右翼的な議論がこれほどまで流布してくるとは考えていなかった。

 歴史問題はさらに、領土問題と絡められることによって、感情的な議論(それはすでに議論の範疇ではない)と化していった。
 歴史認識の異なる相手に対し、「国賊」「日本から出て行け」的に罵倒する作法が、今や一般化してきつつある。

 『朝日』叩きは、戦後的価値観叩きであり、いずれ民主主義的価値観に致命的なダメージを与えることに結果するだろう。

 著者が言われるように、『朝日』は無防備でありすぎ、敵を甘く見すぎていた。
 かくなる上は、取材力と報道力の総力をあげて戦う必要があろう。

 この攻撃を仕掛けている者たちには、巧妙かつ強力に世論を誘導し、狙った相手に的確な一撃を撃ちこむ参謀が存在すると思われる。

 それはおそらく、「国民」の知らない情報機関だろう。
 情報を手にする者たちにとって、ネット上の世論誘導など朝飯前である。

 このところ、自治体議員を右翼的な団体に組織する動きが顕在化している。
 ここに組織された人たちは、自己のの存在理由をかけて右翼的言動を競っている。
 埼玉県議会も、その例にもれない。

 人間を守るためには、現在保障されている権利を最大限行使して、闘う必要がある。

(ISBN978-4-06-219343-6 C0095 P1400E 2014,12 講談社 2015,2,12 読了)