埼玉県立歴史資料館 『中世武蔵人物列伝』

 平安時代中ごろから江戸時代始めにかけての、武将を中心とした人物誌。

 さほど著名でない人物についてもとりあげられているので、武蔵武士の抗争関係を理解するのに便利な本である。

 本書にとりあげられている武将のプロフィールを見ると、武将の本質が、「流動性」であるということがよくわかる。
 彼らにとって「忠誠」は最高の美徳であるが、それはしばしば、領地に対する彼らの支配権(知行権)の保障と矛盾する。
 「忠誠」を全うしたところで、主君が敗北すれば、領地も命も、すべて失うことになる。
 それでは、なんのための「忠誠」か、わからない。
 「忠誠」は、強いものへの忠誠でなければ、意味がないのである。

 となると、彼らにとっての「領地」がいかなる意味を持っていたかを知りたく思うのだが、その点については本書が記述する範囲ではないようだ。

 一読して、理解しづらかったのは、武将の縁戚関係が今ひとつわかりにくい項目が多い点。
 文章については、誰かがリライトするか、全体を調整すればよかった話だと思う。

 また、鉢形城攻防戦における北条氏邦の動向について、ある項目には鉢形城で戦ったとあるのだが、ある項目では小田原城で籠城していたと記述されている。
 これなどは、編集がずさんとしか、言いようがない。

(ISBN4-87891-129-8 C0021 \200E 2006,3 さきたま出版会 2014,10,16 読了)