宮本常一『イザベラ・バードの旅』

 宮本常一氏による、イザベラ・バードの『日本奥地紀行』ゼミナールの記録。

 『日本奥地紀行』はもちろん興味深い(現状未読)が、知の世界に遊ぶ楽しさを十分に味あわせてくれる、宮本氏の講読が非常に魅力的だ。

 宮本氏は、網野善彦氏などとともに、文章で読むより講義・講演・対談で読むほうがエキサイティングな学者に含まれる。

 バードは、明治初年の東北・北海道を、通訳の若者一人を連れて、徒歩で歩いた。

 彼女は、19世紀末のアジア・オセアニア各地を歩き、見聞録を残した、筋金入りの旅行者である。

 彼女の凄さは、ただ歩くだけでなく、訪れた村々を飽くなき好奇心で観察し、記録に残している点である。

 宮本氏が『日本奥地紀行』を解きほぐせば、明治初年の「日本」奥地がいきいきと見えてくるから、驚いてしまう。

 「日本」の人々はおおむね貧しかったが、食うに事欠いているような人はなく、礼儀をわきまえ、つましく満足して暮らしていたようだ。
 衛生状態はあまりよくなく、ことに蚊とノミとシラミが、人の住む至るところに群生していて、バードの神経を刺激した。
 人々は、おどろくほど物見高く、「外国人が来た」というだけで、老若男女が押し合いへし合いしながら見物に訪れた。
 彼らはまた、イギリス人よりはるかに子どもを愛し、大切にしていた。

 これだけ言えば、ごく当然のことばかりで、珍しいことは何もないが、100年と少し以前には、現代の「日本人」とはずいぶん異なる人々が、この列島に暮らしていたということは、大いに重要だと思う。

(ISBN978-4-06-292226-5 C0139 \920E 2014,4 講談社学術文庫 2014,8,21 読了)