北朝鮮研究会『北朝鮮は、いま』

 韓国人研究者による、北朝鮮の政治・経済・文化に関する総合研究。

 一読すれば、政治・経済の両面で、破滅寸前の状態であることがわかる。

 北朝鮮の経済破綻の直接的な原因は、ソ連と東ヨーロッパ社会主義の崩壊だったが、これらの国々に依存しなければやっていけない経済構造を作ったのは、朝鮮労働党の独裁権力だった。

 冷戦時代の北朝鮮は、韓国と比べて資源にも、国際関係の面でも恵まれていたはずである。
 独裁政治を維持しつつも、韓国は高度経済成長を遂げ、さらに民主主義政治体制へと脱皮していったのだが、北朝鮮は、国民が食べるに事欠くところまで窮乏化していった。

 本来であれば、無能な政権は打倒されるべきなのだが、北朝鮮は、最高指導部の中で最も無能な人物をカリスマ化し、国民に「信仰」させることに成功しているらしい。
 経済的に破綻しても、政治的な変動が起きにくいのは、国民に対するそのようなマインドコントロールが効果をあげているからだろう。

 北朝鮮の指導部にとってもっとも重要なのは、彼ら貴族(労働党指導部)階級の支配が維持されることである。
 戦前の「日本」では、食べるに事欠き、無駄に命を消耗する状態であっても、天皇制の政治体制を覆そうという動きは存在しなかった。
 北朝鮮はおそらく、そんな感じなのだろう。

 「日本」人は、戦後になって占領軍によって自由を与えられたのだが、北朝鮮の場合はどうなるのか、予断をは許されない。
 内部からの政治的変動が予測しづらいが、国民のさらなる窮乏が進み、それを解決するため指導部の一部によるクーデターが起こされるというような形が、ありえる気がする。

 北朝鮮指導部の常套手段となった「瀬戸際外交」は今後も継続されるだろう。
 歴史の教えるところを見れば、イデオロギーーを超えて、独裁国家同士が合縦連携することもありうる。
 「日本」の国家主義者にすれば、韓国や中国より北朝鮮のほうが親近性があるかもしれない。

 東アジアの国際関係がどのように展開するかは、全く不透明である。

(ISBN978-4-00-431107-2 C0236 \740E 2007,12 岩波新書 2014,8,20 読了)