『証言 班目春樹』

 大震災当時、原子力安全委員長として事故対応の指導的立場にあった班目春樹氏のインタビューをお弟子さんが再構成した本。

 事故対応がまずかった責任は、自分にはなく、菅直人元首相や文部官僚・経済官僚・原子力安全委員会の自分以外の委員たちなどにあると主張している。

 一部政治家と経済官僚が発案して「国策」化し、立地先への莫大なカネの投下などにより電力会社を側面から援助しつつ、(電力会社に対し)なかば強制的に事業展開させてきたのが、原子力発電だった。

 原発技術や放射線被曝に関する「専門家」の多くは、「日本の原発は安全である」「低線量放射線は健康に被害はない」という根拠に乏しい風説を捻出し、流布させることを飯の種にしてきた。
 班目氏はそのような「専門家」の一人であり(聞き手のお弟子さんも同じ)、3月11日や12日のあれこれの言動以前に、このような事故が起きる可能性を指摘する人々を批判し、「安全神話」の伝道師であったことは事実である。

 とにもかくにもいちおうは「専門家」なのだから、その点について氏がどの程度真摯に総括されているかに関心があって読み始めたのだが、ほぼ最初から最後まで、言い訳と責任転嫁に終始されているので、原発の「専門家」の底を見た思いだった。

 唯一、説得力のある議論は、原発の安全性について今まで以上に厳重に考えるべきであると主張されている点だった。

 班目氏は、原発に対し肯定的だった菅氏が「反原発」に転回した節操のなさを批判されている。
 では、今回の事故は、班目氏の従来のスタンスにいかなる衝撃も与えなかったのだろうか。
 この事故を前にしても、自らの主張にいかなる変更も必要ないと考えられているのだろうか。

 だとすれば、本書ほど厚顔無恥な本はない。

(ISBN978-4-10-333151-3 C0095 \1400E 2012,11 新潮社 2014,5,9 読了)