日野行介『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』

 2011年6月以降、県民を対象に、福島県が行ってきた「県民健康管理調査」の意味や運用をめぐって、県や「専門家」たちがいかに不透明な動きをしてきたかをルポした書。

 福島県と「専門家」の動きの基調は、以下のようにまとめられる。

1 審議や決定経過については、県民に知らせず、秘密裏に行う。

2 被曝の影響を記録するのが調査の目的でなく、「不安の解消」が目的である。

3 将来において健康被害が発生しても、被曝との因果関係が証明できない程度に杜撰な調査とする。

 一連の動きを見ていると、政府より福島県の方がはるかに官僚的で、県民の健康に対し無関心だという印象がある。

 低線量被曝にしきい値は存在しないという説がある。

 一方で、県や政府が依存するのは、年間100ミリシーベルトまでは健康に影響はないとする、「専門家」の説である。

 不安要素が除去できれば不安が解消できるのだが、事故による被曝値を自然被曝値に近づけることは物理的・財政的に不可能に近い。

 不可能に近いからと言って、それをやらないことには、「不安の解消」もできない。

 となると、根拠がなくても強引に安心するよう、人々を洗脳するしかないのである。

 人々に「100ミリシーベルト安全説」を信用させるには、権威によるお墨付きが必要である。

 電力会社からお金をもらっている「専門家」は怪しいと言われるようになったから、最近は、IAEAのメンバーの発言がしばしば、引き合いに出されるようになった。

 低線量被曝の影響として、「専門家」は、以外の健康被害はないと言い張っている。

 その話も、IAEAから出ているらしい。

 原発事故のあと、甲状腺ガンが増加することは、チェルノブィリの経験から明らかなのだが、放射線はDNAを傷つけるのだから、異常発生が甲状腺に限られるはずがない。

 人体は、各臓器が関係しあって機能し、全体としてその人の健康を維持するようにできている。

 問題が起きるのは甲状腺に限られるというような理屈が、まともであるはずがない。

 遺伝子が傷つくことによって起きる放射線障害は、いつ顕在化するかわからない。

 障害自体は何十年も先になって起きることもあり得るのに、現在の医学では、その因果関係を解明することが難しい。

 医学の水準がそこまで到達していないのが原因なのに、現在の法律では、医学的に証明できなければ、因果関係はないと推定される。

 まして、被曝データや身体の変化に関する詳細なデータがなければ、将来、異常が発生したときのの保障は不可能になる。

 国・県や「専門家」はおそらく、そこまで見通して、自分たちの責任回避をはかろうとしている。

 原発事故が犯罪であるという事実を、早く確定させなければならない。

(ISBN978-4-00-431442-4C0236 \760E 2013,9 岩波新書 2014,2,27 読了)

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