忌野清志郎『瀕死の双六問屋』

 ミュージシャンである著者のエッセイ。

 初版(2000,7)のあとがきに、この本は自分で書いた、とあるので、ゴーストライターが書いたものではないと思う。

 最初から最後まで、ミュージシャンである著者の音楽ほぼそのままと言えるコトバが記されている。

 表現の方法として、詩は散文に勝り、音楽は詩に勝るのではないかと思うので、この本で著者を理解しようとしても、無意味である。

 そういう人は、CDを何枚か買って、それを聴けばよい。

 それでは、この本を読むのは無駄かと言えば、そうでもない。
 全60話のうち、最後の16話分にはついていないのだが、1話ごとに、著者が愛したロックの名盤の数々が簡潔に紹介されている。

 本書には、著者の単なるつぶやき(ないし叫び)のように見えて、その中に、著者のいう魂のロックとは何かについて、主として1960年代を風靡したロックミュージシャンを通して語られている。

 タテマエや打算や金儲けや諸規則など、生身の人間が本音で自己を表現しようとするときにまとわりついて足を引っ張る数々の醜悪な怪物たちへの、著者の憤りを、われわれも共有する。
 著者のようにすごいメロディやリズムとともステージ上で憤りを表現することはできないが、自分のココロの自由に踏み込もうとする者は、許さない。

 「当たり前だろう。いくら偉い人でも。どういうつもりなんだ ?」と言われれば、「その通りだ。俺は負けないぞ」と言いたくなるではないか。

(ISBN978-4-404-04143-2 C0095 \2190E 2012,2新人物往来社 2014,1,23 読了)