石橋克彦編『原発を終わらせる』

 福島第一原発事故を受けて、原発をどう考え、原発廃止をどう考えるかについて、13人の研究者・技術者がコンパクトに語っている。

 フクイチ事故に関しては、事故原因もまだ確定していないが、東電と原子力ムラは「津波原因説」で収束させようとしている。

 公的な事故調査では、「国会自己調」だけが、津波だけが原因とは断定できない、という評価をしていたと記憶する。

 激しい地震によって原発内部の配管が破断した上で津波が襲ったのが原因で冷却不能にいたったのか、それとも、津波だけが原因で冷却不能になったのかという問題は、「日本」で今後原発を維持できるかどうかにかかわる問題である。

 「地震+津波原因説」(以下「A説」とする)が正しいとなれば、巨大地震を免れない日本列島上に原発を建設するのは無理ということになる。
 「津波原因説」(以下「B説」とする)が通れば、地震による破壊を今まで以上に考慮する必要はなくなるから、活断層の真上以外であれば、原発立地は可能となるし、津波は「想定外」だったということが認められれば(実際には、地震に伴う大津波の可能性はたびたび予測されていたのだが)、事故に伴う賠償責任さえ回避できるからである。

 現状では、原発の核心部の調査ができないから、事故原因の科学的究明は不可能であるが、東電・政府と原子力ムラは、B説が確定したかのような言説を振りまいており、事実関係の偽装さえ、行われつつあるようだ。

 「日本」では、自動車や航空機が事故を起こした場合にも、徹底的な原因究明が行われる。
 これらの事故の調査機関の仕事は、一般的にも信頼されているし、信頼されるだけの実績がある。
 原発事故に関する公的な調査機関が、事故にいたったあらゆる可能性を検討するという科学的な方法を用いずに、今後の原発建設・再稼働に導くために、事故原因に関する結論をゆがめることを危惧する。

 公的な事故調査が茶番に終わる可能性は少なくない。
 そうなれば、日本列島に人が住めなくなるほどの、破滅的な事態は避けられない。

(ISBN978-4-00-431315-1 C0236 \800E 2011,7 岩波新書 2013,9,25 読了)