村井早苗『キリシタン禁制と民衆の宗教』

 前半はキリスト教の禁教の経緯、後半は民衆と寺社の関わりについての具体例を示した書だが、前半部分と後半部分とがどのような論理的脈絡でつながっているのか、よくわからなかった。

 禁教の経緯についてはわかるのだが、江戸幕府がなぜキリスト教を禁圧したのかについての説明は全くない。

 キリスト教の教義が、一部の戦国大名と対決した一向宗のそれのアナロジーだったから、幕府により禁忌されたという説明をどこかで読んだが、それなら一向宗そのものが禁止されるはずだ。
 おそらく、キリスト教の背後に控えていたヨーロッパ諸国による侵略の意図を感じとったから禁教に至ったと思われるが、そのあたりについても、言及はない。

 後半部分では、民衆生活に寺壇制度下の寺社が関わっていたということを例挙している。
 それはわかるが、そのこと自体は、これといった新知見ではない。

 寺檀制度により、寺院が本来もっていた宗教的緊張感を喪失して支配の末端機構へ堕し、一部が草の根の国学に走った神道の方で、より活発な宗教活動が展開された、と理解してきたが、そのような理解の有効性についても、言及されていない。

 江戸時代後半の宗教史において画期的なのは、19世紀以降各地で展開した新しい宗教の存在だったはずであるが、それにも言及がないし、ごく一般の民衆の精神的非日常世界に存在した、伊勢参りや山岳宗教についてもふれられていない。

 それら個別のテーマについて、深く掘り下げた、コンパクトな本を読みたかった。

(ISBN4-634-54370-2 C1321 \800E 2002,7 山川出版社 2013,9,25 読了)