小出裕章『この国は原発事故から何を学んだのか』

 フクイチの事故原因は、まだ特定されていないが、東電と政府は、「想定外の規模の津波が原因」説に収束させようとしている。

 もちろん、大津波が事故の一大要因だったことは、疑いない。

 しかし、「原子力ムラ」の人々には、津波が事故の唯一の原因でなければ困る事情がある。

 例えば本書には、フクイチ一号機が非常用電源を喪失したのは、3月11日の15時35分から36分の間であるが、「国会事故調」によれば、津波のフクイチ到達時刻は15時37分だという事実が書かれている。

 これだと一号機は、津波到達以前に冷却不能に陥ったのであり、地震による揺れがその主原因だったということになる。

 これでは、「原子力ムラ」にとって、まずいのである。
 原発が地震で壊れるものであれば、日本列島に原発を作ることができる場所などなくなるから。
 それでは、「ムラ」の既得権や利権がなくなってしまうから。

 本書には、津波では破壊されることがありえないフクイチ二号機の圧力抑制室で起きた水素爆発について、東電が前言を翻して、(水素爆発はなかった」と言い始めたことにも、疑問を呈している。
 これまた、地震で壊れたなら、「ムラ」にとってはまずいのだ。

 「ムラ」にとってまずい結論は、事実を隠蔽してでも回避しなければならない、という状況は、もはや科学でもなんでもなく、インチキ見世物の次元でしかない。

(ISBN978-4-7790-6068-7 C0295 \838E 2012,9 幻冬舎ルネッサンス新書 2013,8,30 読了)