大城立裕『小説琉球処分(上下)』

 文化が不変でないのだから、民族というカテゴリーも不変でないだろう。

 明治初年の琉球の人々と「日本」人とが同じく「日本」民族に属するといっても、いわば別民族としての道を歩み始めつつある状態だっただろう。

 琉球民族は、外交力に依存して、民族の自立を図っていた。
 王を頂点とする封建国家だったことを不問にして、この国を美化するつもりはない。
 被支配階級は、支配者と島津によって二重に収奪されていたから、この時代の琉球が平和の楽園だったわけではない。

 しかし、支配者も非支配者も、島津によって支配されていたという点では、非抑圧民族としての同一性をしていたと思われる。
 琉球の不幸の原因は、世界中の被抑圧階級・非抑圧民族にとってのそれと同様に、19世紀世界という、酷薄な環境に投げ出された点にあった。

 「日本」は、明治「維新」後、北海道を植民地化して、アイヌ民族の抹殺を図った。
 ここには、失業した士族など、食い詰めた人々などが植民し、北海道は次第に「日本」化した。
 対ロシア戦略という点では、北海道も千島も、「日本」にとって重要な拠点となった。

 琉球もまた、対清国のみならず、太平洋の玄関口として、出発したばかりの「日本」国家にとってのキーストーンと目された。
 清国が健在であれば、琉球の帰属問題は、より複雑な曲折をたどっただろうが、この時代の清国に、いち早く中央集権化をなしとげ、急速な西洋化を進める日本と、ことを構える余裕はなかった。

 外交によって独立を維持しようとする琉球は、武力こそが国家自立の基本だという、19世紀世界の論理を習得した「日本」による侵略の前には、無力でしかありえなかった。
 本書に描がれている琉球王族・士族たちの葛藤は痛々しい。

 一方、外交によってモノゴトを解決できる世界は、未だ実現できていない。
 「日本」は、琉球を同胞視しておらず、「日本」の事実上の植民地として「利用」しようとしている。

 琉球の苦悩は、外交が力を持ちうる道義国家の時代が実現するまで、続くだろう。

(上巻 ISBN978-4-06-276769-9 C0193 \762E 2010,8 講談社文庫 2013,8,11 読了)
(下巻 ISBN978-4-08-276770-5 C0193 \762E 2010,8 講談社文庫 2013,8,11 読了)