吉村昭『戦艦武蔵』

 戦艦武蔵の建艦から沈没までを描いた小説。

 小説とはいえ、武蔵の建造日誌に取材しているので、着工から進水までの描写は圧巻である。

 武蔵にそそぎ込まれた技術は、戦争でなくとも構築できたかもしれないが、高度の熟練や驚異的に短い納期での建艦は、戦争という異常事態のなかで初めて、可能になったと思う。

 武蔵と大和は同じ設計図を使って作られているが、大和が海軍工兵廠で作られたのに対し、武蔵は三菱重工長崎造船所で作られた。
 アメリカ軍の攻撃により長く耐えたのは武蔵の方だったが、もちろん単純な比較はできない。

 これほどの戦艦になると、莫大な資源を潤沢にそそぎ込まなければ建造できず、莫大な燃料を消費しなければ航行できない。
 それが兵器なだけに、大和のように無駄に沈められたのでないだけ、存在意義があったとも言い難い。
 沈没した武蔵から救出された兵士の割合は、大和のそれよりずっと多かったが、投げ出されて漂流状態から九死に一生を得たにも関わらず、護送にあたった輸送船が雷撃によって再び沈没したために死んだり、別の作戦に転用されて玉砕するなど、多くが気の毒な運命をたどったという。

 大和も武蔵も、作られない方がよかったと思う。

(ISBN4-10-111701-2 C0193 438E 1971,8 新潮文庫 2013,7,8 読了)