大内兵衛『マルクス・エンゲルス小伝』

 マルクス・エンゲルスの伝記というと、手放しの礼賛本ではないかと、まずは警戒してかかる。

 本書にも、そのような部分がないとは言えないが、まずまず冷静な記述なので、不愉快にならずに読むことができる。

 マルクス・エンゲルスは、まず人間について考察し、次に社会主義が人間を解放することに思い至り、さらにその必然性を論証するために、経済学を極めた。

 彼らの初発の問題意識はやはり、人間にあったのである。

 そのことがことさら光彩を放っているように見えるのは、21世紀における人間と労働との関係が、19世紀のそれと本質的に全く異なっていないからである。

 市民的自由を完全に保障し、生産手段の社会的所有を実現したとしても、「個」としての人間の苦悩は、解消されない。
 それは、人間という生き物の生来的な属性だからである。

 しかし、人間は現在、「個」としての苦悩どころか、自分の生命を維持するのに精一杯で、種の維持=子育てもままならず、個体数を減少させつつある。

 マルクス・エンゲルスは、社会主義の理論を提唱しただけでなく、革命運動にも挺身した。
 「万国の労働者、団結せよ」は、不滅の真理だと思う。

(1964,12 岩波新書 2013,7,5 読了)