吉田満『戦艦大和ノ最期』

 著者は大和搭乗時、弱冠21歳、東大卒(繰り上げ卒業だから実質的には学生)の将校だった。

 日本海軍最大・最強の巨艦の中枢部で、副電測士として、刻々と展開する状況・戦況を整理して司令部に集約するという重責を担っていたわけだが、叩き上げの軍人よりも、情報処理能力はすぐれていたかもしれない。

 そもそも大和が必要だったのか、という問題がある。

 作戦開始後の大和艦内においてさえ、「世界ノ三馬鹿、無用ノ長物ノ見本-万里ノ長城、ピラミッド、大和」の雑言が、堂々と語られていたほど、当時の戦争における巨艦の意義は疑問視されていた。

 大和が爆沈させられた「天一号作戦」が特攻作戦だということは、計画段階から、はっきりしていた。
 特攻作戦は、戦略なき自暴自棄の所業である。

 発案から決定・出動まで、わずか数日しかかかっていない。
 日本海軍にそもそも、戦略は存在しなかったと言える。
 この作戦を主導した参謀は、敗戦後、事故死したようだが、なんの責任をもとっておらず、驚くべき無責任な話である。

 誰もが予想したとおり、大和は、出撃後わずか一日・戦闘開始後二時間もたたないうちにあえなく沈没し、乗員2700余名が犠牲となった。
 これだけの人間を無駄死にさせた戦争と作戦に、憤りを禁じ得ない。

(ISBN4-06-096287-69 C0195 \940E 2000,6 講談社文芸文庫 2013,6,16 読了)