中村方子『ヒトとミミズの生活誌』

 世界におけるミミズの分布や生態について概説した本。

 ミミズは自力で海を渡ることができないから、ミミズの分布は大陸や島の形成を解く鍵となる。

 一方、人によって植物が移動させられれば、ミミズも容易に移動する。

 これによって、ミミズ界でも弱者が淘汰されつつあるらしい。

 ミミズが土壌の形成に重要な役割を果たしていることは、よく言われている。
 土壌のほとんどは、ミミズの糞だという説を聞いたこともある。
 本書には、風化したばかりの岩石にあっても、(枯れ葉など)植物生産物が存在すれば、ミミズは生存でき、土壌を生産できるとある。

 『キノコの教え』に、森林生態系を根底から支えているのは菌根菌だということが書かれていた。
 植物の根系を健全に保つ役割を果たしているのが菌類で、土壌を健全に保つ役割を果たしているのがミミズなのである。

 現代文明は、菌類やミミズの存在を無視したところに成立している。
 コンニャク農家の多くは、種芋の植えつけ前に「土壌薫蒸」という作業を行っている。
 土壌中に生息する有害な微生物を毒液漬けにして全滅させるのだが、土壌にとって有益な微生物・昆虫・ミミズのすべてを殺してしまう。

 連作障害による病害を防ぎ、大量の施肥によって収穫を増やすのが土壌薫蒸の目的である。

 「強い農業」「競争に勝てる農業」とはこのようなものなのだが、都会民は、このようにして育てられた食べ物を待ち望んでいるというのだから、恐れ入ってしまう。

(ISBN4-642-05431-6 C0320 \1700E 1998,2 吉川弘文館 2013,5,22 読了)