広河隆一『チェルノブイリ報告』

 事故後の東ヨーロッパ、なかでも高濃度の放射性物質によって汚染されたウクライナとベラルーシで何が起きたかを報告したルポ。

 福島第一原発事故後の東電と政府の対応は、実に不誠実だったと思っている。

 東電は、責任を逃れるために情報隠しを行ったし、政府は、パニックを回避しようとして不正確な「安全」談話を垂れ流し続けた。

 飯舘村の住民などは、東電と政府によって被爆させられた。

 旧ソ連においても事態はほとんど同様だった。

 事故を起こしたし当事者である発電所の所員たちは、彼らにできることを行ったが、ソ連政府は、事故の実態や影響を矮小化し続け、避け得た被爆にさらされた。
 ソ連では、「日本」以上に正確な情報が入りにくく、放射性物質によって汚染された食品は、半ば公然と出回り続けた。

 本書は、甲状腺ガンなどが激増するに至った前に書かれている。
 より深刻な事態に至ったのは、本書刊行後なのであるが、本書に報告されている状況とて、恐るべき事態である。

 国家は、原発事故における放射能の影響を隠蔽し、軽視する。
 これは、法則的な真理らしい。
 原発とは、経済効果があるわけでもなく、ひとたび壊れれば回復しがたい致命的事態をもたらす。
 原発を作る理由がどこにあるのか、マトモに考えれば、答えは出ないはずだ。

 原発とは、じつに胡散臭い代物なのである。

(ISBN4-00-430168-8 C0229 P580E 1991,4 岩波新書 2013,5,16 読了)