田中三彦『原発はなぜ危険か』

 福島第一原発四号機の原子炉圧力容器の製造を担当した設計技師が、原発の技術的な問題点を解説した書。

 原子炉を入れる圧力容器・格納容器が壊れれば、大量の放射性物質が放出され、莫大な被害が想定される。

 被害の規模によっては日本列島に人間が住めなくなるから、それ以外の事故や災害とは、次元が全く異なる。

 原発を構成する機器の故障や事故が秘匿されるのは、事故を起こしてはならないという運命があるからである。

 人が作るものには、どこかに脆弱さがあり、いずれ壊れる。
 また、ミスのない人は、存在しない。
 そのような一般的真実に反して、原発は、絶対に事故を起こしてはならない機械なのである。

 著者は、福島四号機の圧力容器制作途中に原因不明の歪みが生じ、それを修正する作業に関わったわけだが、そうしたいきさつは地元に対してもいっさい公表されなかった。
 著者がそれを公表したのちにも、メーカー・電力会社・政府は、事実を認めた上で、安全に重大な問題があるわけではないという見解だった。

 危機に対して、さまざまな状況を想定してシミュレーションするのは当たり前のことだが、「原発の建設を不可能にする」が故に、原発に関して最悪の事故は想定されていない。

 たとえば福井県の原発が、福島で起きたような、あるいはそれ以上の過酷事故を起こし、近畿圏全体が居住不可能になったらどうするかという想定は、さほどリアリティのない話でもないのだが、そのシミュレーションなど、恐ろしくてできないのだろう。

 本書はまた、原発を長年運転し続けることによって発生する脆性に起因する事故の可能性にもふれている。

 1960年代から1970年代にかけて建設された巨大構造物の耐用期限が、切れつつある。
 中央道笹子トンネルの天井が崩落した事故の直接の原因は、手抜き工事や手抜き点検だろうと思われる。
 しかし、本質的には、「古くなった」のが根本原因である。

 福島第一原発は2011年3月の時点ですでに、耐用期限を迎えていた。
 著者が言うように、古い原発は、現在では承認されないような古い設計で作られている。
 複雑で巨大な配管が網の目のように張りめぐらされた構造物である原発を更新するなど、不可能である。
 耐用期限切れが今回の事故の原因ではなかったものの、別の原発でそれに起因する事故が起きないとは限らない。

 もっとも問題なのは、原発を止めるとか原発に依存しない発電方法を考えるというとき、原子力の「専門家」や電力会社などが、職やコストを失いたくない故に、原発の危険性を敢えて見ない態度をとるという点だろう。

 多少専門的な本ではあるが、わかりやすく、勉強になった。

(ISBN4-00-430102-5 C0254 P520E 1990,1 岩波新書 2013,4,5 読了)