広河隆一『福島 原発と人びと』

 3.11直後の福島の状況のルポ。

 新聞の紙面からフクシマに関する見出しがめっきり少なくなった。

 政権は変わったが、政府が何をしているのかは、ちっとも見えてこない。

 自民党の新政権は、原発再稼働に前向きだし、フクシマの復興などより、「領土問題」とかTPPなどに注力しようとしているようだ。

 三陸一帯を襲った津波は、不条理そのものだった。
 それでは、地震による被害がさほどでなかったにもかかわらず、原発事故による癒えがたい被害を被ったフクシマはどうか。

 全電源喪失の可能性を指摘されても、原発は安全だと言い張ってきた学者たちがいた。
 自分のカネじゃないからそんなことができるのだが、札束で頬をひっぱたくようにして人びとを黙らせてきた官僚や政治家たちがいた。
 そのカネのおこぼれを懐に入れて、物言う人を迫害した小権力者たちがいた。
 彼らはみな、「自分のせいじゃない」と言っており、責任を認める人は、ひとりもいない。

 原発がなければ、原発事故は起きない。
 地震は天災だが、原発事故は原発を作った人為が原因である。
 こんな単純な事実を、だれも認めようとしない。

 本書には、事故発生以降、東京電力・政府・マスコミが、事故の実態を隠蔽するために腐心してきた事実が記されている。
 事故の真実が明らかになれば、東電や政府の責任が露見する。
 マスコミは既に、政府広報機関でしかない。

 「日本」が存在する理由があるとすれば、「国」の力をあげて、列島の人びとが今まで暮らしてきたような暮らしを存続させる手伝いをしなければならないはずだ。

 フクシマをもっと知らねばならない。

(ISBN978-4-00-431322-9 C0236 \760E 2011,8 岩波新書 2013,3,26 読了)