本田宗一郎『私の手が語る』

 ホンダ創業者によるエッセイ。

 格言に満ちているわけではないが、もの作りに生きた人らしいいくつかの言葉が印象的だった。

 二代目以降は、資産・財産をどのように維持するかに腐心するのだろうから、創造性とか開拓者精神とは異なる能力が求められるのだろう。

 たたき上げの創業者でありながら、自ら考案し試作を重ねて、高品質な商品を世に出してきた人間ならではの現場感覚が、著者にはある。

 もの作りをめざす集団でなくとも、一つのプロジェクトを遂行しようとする集団のリーダーには、現場感覚がほしい。

 モノを作る上での創造性は、原材料と機械を前にしてこそ、発揮されるのだろうし、本質的にコミュニケーション能力であるリーダーシップは、現場集団の中でしか、育まれることがない。

 後半は冗長な感じもしたが、冒頭に掲げられた著者の、傷だらけの左手のイラストは、圧倒的だった。

(ISBN4-06-183453-3 C0136 \466E 1985,2 講談社文庫 2013,2,26 読了)