島村菜津『スローフードな人生!』

 自分が毎日食っているのはたぶん、スローフードだと思う。

 冬の朝、休日はほとんどパンを食べる。

 朝起きたらまず、酵母を起こす。
 酵母は市販品を使い、砂糖を餌にしてこたつに入れておけばよい。

 酵母を起こしている間に、粉を挽く。
 麦粒のまま瓶に入れてある小麦を、電動式の粉挽き機を使って挽くのだが、スイッチを入れれば粉になるというものでもない。

 最初は荒く挽き、フルイで何度もふるいながらだんだん細かくしていく。
 200グラムほどの全粒粉を挽くのに、20分くらいはかかる。

 全粒粉だけでは今ひとつ元気に膨らまないので、市販の強力粉を200グラム加え、起こした酵母と塩・砂糖を加えてパン種を打つ。
 こたつで醗酵させることもできるが、こたつは猫の居場所なので、電子レンジを使って醗酵させる。
 一次発酵に入ったところで、薪ストーブの火を起こす。

 パン焼きはダッジオーブンと熾火及び消し炭を使う。
 発酵が終わったあと一気に焼き上げるには、鍋を予め強く熱しておく必要がある。
 二次発酵に入ったところで、ひとつの七輪に熾火を入れ、鍋本体を加熱し、もうひとつの七輪を使って蓋を加熱する。

 醗酵が終わったら、鍋に入れ、熱い蓋をかぶせた上、蓋の上に熾火をどんどん載せて、急加熱する。
 焼きに入ると、真冬でも汗ばむほどに暑い。

 ガンガンに熾をのせてやれば、焼き上がりまで、約15分くらいである。

 ところで、小麦は畑で作る。

 種をまくのは前年の秋である。
 冬を越さる間に、一二度、麦踏みをする。
 種まきの際、肥料はほとんど与えずに、前作の残肥を吸わせるが、春になる前に、薪を燃した灰をいくらかまく。

 春になれば、倒伏を防ぐために、土を寄せる。

 穂が出てきたら、スズメの食害を心配する。
 網をかけたことはないが、今後、その必要が出てくるかもしれない。

 六月の終わりごろが麦秋で、手で麦を刈る。
 しばらく干したのち、足踏み脱穀機で脱穀する。

 そのまま保存すると、蛾の幼虫が出るので、熱燻蒸によって殺虫する。
 熱燻蒸は、麦を平ザルに入れて、密閉した自動車の中に数日間、放置すればよい。
 虫が完全に死滅したと思われるところで、密閉した瓶に入れて、保存する。

 この状態はまだ、もみがついているから、粉に挽ける状態ではない。
 粉挽きするまでに、すりこぎや手を使ってもみをすり、ゴミを風で飛ばしてようやく、麦粒になる。

 素朴な味の黒っぽいパンだが、焼きたてはやはり美味で、小麦の偉大さをしみじみ感じることになる。

 本書を読んでいると、そのパンを、エスプレッソ珈琲と一緒に食べたくなった。

(ISBN4-10-104521-6 C0177 \552E 2003,5 新潮文庫 2013,1,24読了)