金丸弘美『田舎力』

 サブタイトルに「ヒト・夢・カネが集まる5つの法則」とあるので、農山漁村に来て儲け話を吹いているコンサルタントの本かと思い、「ちっ、失敗したか」と感じた。

 が、さいわい、コンサル的口調はやや気になるものの、そんな本ではなかった。

 今の自由主義経済が続く限り、田舎すなわち農山漁村が経済的に都会と対等になるなど、絶対に不可能である。

 「人を集める」ための観光振興など、すべて嘘だと確信できる。

 人を集める必要などない。
 みんなが安心な食べ物を食べて、土・森・海などの環境とよりうまくつきあっていく知恵を受け継ぎ、ほんの少しの新知見を付け加えることで、自分の人生に誇りが持てるような暮らしができれば、それで十分なのである。
 「日本」が美しいとすれば、この列島の民が、そのような心ばえを持って生きてきたからではないか。

 「美しい日本」は、経済発展と両立しない。

 ちなみに、市場経済を否定した社会主義は、共産党が独裁政治を永続させようとして、経済をコントロールしようとしたところから、崩壊した。
 現今の「社会主義」国家は、旧タイプの社会主義と同じ共産党の独裁を維持しつつ、人々の物欲をテコに経済発展を図るという、実質的な自由主義経済をとっており、いわゆる社会主義経済をとる国ではない。

 カネは今やバーチャルな価値だが、世界がその価値を認めている限り、現実的な力たりうる。
 望むらくは、カネの価値が幸福の価値とは異なるという真実を知る人が、多くなってほしい。

 著者は、「発見力」「ものづくり力」「ブランドデザイン力」「食文化力」「環境力」が、地域復権の鍵になると述べておられる。
 現実に、事態はそう単純には進まない。

 そんな中で、人を動かしうるのは、事実で示すことでしか、ない。

(ISBN978-4-14-088297-9 C0236 \700E 2009,8 NHK生活人新書 2013,1,3 読了)