伊藤和明『地震と噴火の日本史』

 四つのプレートの境界線上に隆起しつつあるという立地条件の上に成立している日本列島にとって、地震(及び津波)と火山の噴火は避けることのできない運命である。

 有史以来列島の民は、これらの天変地異によって手ひどい痛手をこうむってきた。

 天変地異のメカニズムは、何もわからなかった以前に比較すれば、解明されてきている。
 現在わかっているのは、これらの災害は避けられないということであり、その発生はごくアバウトにしか予測できないということである。

 天変地異を封じ込めるのは不可能なのだから、人間に可能な対処は、逃げることしかない。
 逃げることができない場所は、住むのに適していないということなのである。

 逃げることが可能な場所と不可能な場所は、被災の歴史からしか、わからない。
 文書資料に残された記録より、地域住民によって語り伝えられた被災体験が、もっとも確かな資料となる。
 2011年3月の災害の際にも、このことが最確認された。

 本書は、列島における有史以来の災害の記録である。
 この千数百年間に、大きな地震・津波・噴火災害は、幾度となく発生している。
 これらの記録からわかるのは、地震の起こりにくい場所など存在しないということであり、プレート移動型の地震が起きた時には想像を絶する津波を伴うということであり、噴火の記録のある火山のほとんどは噴火を繰り返すということであり、火山(例えば富士山)の噴火と大地震は連動するということなどである。

 列島の太平洋岸で巨大地震が起きるということは、ずいぶん以前から想定されていたことだが、その一つが2011年3月に現実のものとなった。
 想定されている地震は、それで終わりではなく、今後近いうちに、東北の地震に匹敵する規模の地震が襲来するという、かなり確度の高い予想がある。
 この地震は、富士山の大噴火と連動する可能性も高いから、最悪の場合、大地震・津波・大噴火が、前後して襲来するということになる。

 いわゆる南海・東南海地震以外に、内陸直下型の巨大地震が起きる可能性は、列島のいたるところに存在する。

 歴史が教えているのは、いかに逃げるかということでしかない。
 現代人が真剣に学び、対策を立てるべきも、いかに逃げるかということである。

 学ばなければ、破滅が待っているだけである

(ISBN4-00-430798-8 C0244 \700E 2002,8 岩波新書 2012,10,31 読了)