広瀬隆『二酸化炭素温暖化説の崩壊』

 「化石燃料の燃焼に伴う二酸化炭素の温室効果により、地球が温暖化している」という通説を否定する書。

 短期的に見れば、気温の上昇やそれに伴う激しい気象現象が増加しているのは事実だが、その原因が二酸化炭素だという説には、意外と根拠がない。

 地球気温の変動要因は複雑で、現在の知見では、まだほとんど解明されていないに等しい。

 にもかかわらず、二酸化炭素原因説が突出しているのは確かに、異常である。

 日本史を学んだ人間にとって、「縄文海進」という事実は常識である。
 沖積平野が現在の形だったわけではないだろうが、海岸が現在より深く食い込んでいたということは、海水面が現状より高かっ
たことの証拠となろう。
 それは、日本の縄文時代に相当する時代に、現在を上回る高温時代があったことを意味するが、その原因も明らかでない。
 つまり、地球規模の気候変動に関する知見は、まだほとんどなきに等しいのである。

 著者は、地球が温暖化しているという観測データにも、捏造の疑いがあると主張されている。
 それが事実なら、通説は根本からひっくり返ることになる。

 著者はまた、発電に伴う放熱(ことに原発から放出される莫大な温排水)が海水温を上昇させていることや、熱交換器を通して冷房機から放出される熱風がヒートアイランドの原因になっていることなどを踏まえ、温室効果ガスにのみ温暖化原因を求めることが論理的に成立しないと述べておられる。

 ヒートアイランド現象については、夜間における都市と山村の気温差を見れば明らかなのだが、それは都会民には実感できないから、「温暖化」という言説を(それが嘘だとしても)受け入れやすいだろう。

 著者は、通説に一かけらの真実もないと述べておられるわけではない。
 通説にあるような現実が全く存在しないわけではないが、地球環境を悪化させる要因は、他にも存在する。

 にもかかわらず、大きな放熱要因である原発が温暖化対策に役立つかのようなこじつけ理論がまかり通るのは、詭弁と言うよりペテンというべきだ。

 「自然エネルギー」(代替エネルギー)の怪しさについては、以前から感じているところである。
 著者は省エネルギーにも全面的に賛成されていないようだが、エネルギーを費消する暮らしや経済そのものを、見なおすべきだという考えは、変わらなかった。

(ISBN978-4-08-720552-7 C0236 \700E 2010,11 集英社新書 2012,9,30 読了)