鎌田慧『こんな国はいらない』

> 西暦2000年以降の、主として人権に関する著者の評論集。

 老人医療は保険制度から切り捨てられたし、生活保護受給者を詐欺師扱いする見方がまかり通っている。

 年金受給者の存在そのものが、若い人たちの生活苦の原因であるかのような物言いも、ごく普通のことである。

 自力で生活できなくなった人間に、生きる資格はないとでもいうような風潮は、「自己責任」という言葉に象徴される苛酷な時代状況を感じさせる。

 「社会主義」体制の崩壊が、こういうことを意味するのだと理解していなかったのは、迂闊だった。

 高度経済成長期のような好況が再来でもしない限り、国家に対し、手厚い福祉を要求し続けることは不可能である。
 弱いもの、不運なもの、ハンディを持つものも、生活の心配なく生きることのできる社会を作る方法は、パイを大きくすることが望めない以上、金持ちからむしりとる以外にない。

 市民の運動によって、金持ちが持つカネを吐き出させる制度を作っていく以外に、この「国」の社会を暮らしやすくする方法はない。

 「福祉」と共にこの間、急速に萎縮しつつあるのが、「人権」だろう。

 食うためには、雇ってもらわねばならない。
 雇って欲しければ、雇い主が望むような態度・服装・髪型・思想を備えねばならないという流れができつつある。
 社会的に言えば、マジョリティにあわせて自己形成せよということだろう。

 学校が教育工場であってはならないと思うのだが、「果たしてこんなことでよいのか」と自問する余裕は現場になく、次から次へと迫り来るスケジュールに追われることで、考える習慣を磨耗させている。
 ネットには、他罰的な言説やマイノリティ叩きがあふれ、複雑で論理的な議論は、成立しにくい。

 著者の言説はもっともであるが、これが社会に浸透する条件が失われつつあるような危惧を強く持つ。
 大切なのは、事実・真実を知らしめることだろう。
 ジャーナリズムには、隠蔽された事実・真実をより多く明らかにして欲しいものである。

(ISBN4-8228-0364-3 C0036 \1600E 2003,4 七つ森書館 2012,9,13 読了)