小川眞『キノコの教え』

> 生態学的な観点から見たきのこの役割について概説した書。

 しばしば、植物=生産者、動物=消費者、菌類=還元者という言い方がされ、きのこは還元者に位置づけられている。
 そのことももちろん、書かれているが、本書の白眉は、菌根の役割について、明快に説明している点だろう。

 著者によれば、ほとんどの樹木の根は菌根と一体化しており、樹木に必要な養分の無機質や水分は、菌根が提供しているという。

 日本列島を覆う森林には、地上部に匹敵する地下部(細根の張りめぐらされた土壌)が存在するわけだが、根や土壌が正常に機能するためには、菌根が正常でなければならないのである。

 アカマツやミズナラの枯死が問題化しているが、対マツノザイセンチュウ・対カシノナガキクイムシという視覚からだけ、この問題を考えたのでは、本質を見失うし、対症療法しか考えつけない。

 疑うべきはまず、菌根は大丈夫か、ということであり、菌根が健在であれば、土壌も健在だということのようである。

 菌根を賦活する方法として著者は、木炭の利用が経験的に有効だと述べている。

 樹木の活性化を考える際に、いいヒントを得ることができた。

(ISBN978-4-00-431365-6 C0245 \800E 2012,4 岩波新書 2012,8,13 読了)
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