筒井功『新・忘れられた日本人』

 サブタイトルに「辺界の人と土地」とある。

 一読すれば、「辺境」でなく「辺界」と表現した意味がよくわかる。

 この列島には、辺境・市街地を問わず、一般社会から疎外されて、あるいは意図的に離れたところで暮らしている人々が存在する。

 そのような人々に対し、殆どの人が関心をまったく持っていないか、偏見を持っているか、あるいはその両方に該当するかである。

 本書の中の白眉はやはり、差別されていた人々に関するルポだろう。

 江戸時代に部落差別が制度化されたことについては、異論はないだろう。
 しかし、明治維新直後に出された「解放令」が「一歩前進」だったかどうかについては、問題が多いと思われる。

 江戸時代に、被差別は特権と一体の側面もあったのだが、明治以降は、差別はそのままに、特権のみが否定された。
 本書を読んで感じたのは、非定住被差別民への差別は定住化によっていずれ霧消するが、居住地から離れることの困難な定住被差別民に対する差別は、国による事業を待たないと解消しづらかったのではないかということである。

 豊臣秀吉による朝鮮侵略の際に強制的に連行されてきた主として陶工たちの子孫に関して言えば、日清・日露の戦争を経て、激しい差別にさらされることになった。

 国家への服従を拒否したわけでもないこれらの人々への差別は、「日本」という国家の不条理を象徴的に示している。

 国家自体が迫害するのではない。
 国家に属しているとことさら自覚している人々が、故のない迫害行為をなすのである。

(ISBN978-4-309-22553-1 C0039 \1800E 2011,11 河出書房新社 2012,7,31 読了)