浜田正晴『オリンパスの闇と闘い続けて』

 サラリーマンであれば誰しも、勤務先のコンプライアンス違反事例に遭遇する経験をしなければならないだろう。

 事例を何らかの形で問題にした場合、適切に処理される場合もあれば、そうでない場合もありうる。

 著者の場合は、適切に処理されないばかりか、法や商道徳に明白に違反した会社側が、その是正に動いた著者に対し、会社ぐるみの陰惨な報復が行ったというものだった。

 自分自身、上司のルール違反に振り回された経験がある。
 著者の場合は、会社が顧客からヘッドハンティングを強行したために、重要顧客との信頼関係が破壊されることを危惧して動いた著者に対し、直接の上司のみならず当時の社長までが報復する側に回り、社員の多くも大勢に従った。

 私の経験した事例は、上司のルール違反によって不信感をもったクライアントのほぼ全員が、会社に対し、納得の行く説明を求めたにもかかわらず、直接の上司が説明を拒否し、あるいは混乱に輪をかける言動を繰り返したため、職場で話し合った結論として、組織のトップに実情を訴える文書を送ったというものだった。

 この件は、その段階では上司たちが召喚されて調査を受けたにも関わらず、結果的には事態は改善されずじまいだったが、上司たちのその後の昇進はストップさせられるという形で収束させられた。
 私たちに対する報復はたぶん、まったくなかった。

 事態をただちに改善するという当初の目的を達することはできなかったとはいえ、言うべきことを言ったという意味で、自分にとって、消化不足という未達成感は残っていない。

 コンプライアンス違反是正に著者が動いたのは、会社の社会的信用失墜を防止するためだった。
 私たちがかつて埼玉県教育委員会にルール違反の是正を求めたのは、上司たちの思いつき的な行動によって生徒たちが傷ついたり、保護者たちに不信感を持たれるなど、学校の社会的信用失墜を食い止めるためだった。

 会社の社会的信用失墜を防止しなければ、商品の販売戦略に齟齬をきたす。
 学校の社会的信用失墜を防止しなければ、学校は地域社会から見放される。
 いずれの場合にも言えるのは、トップが経営戦略の王道を完全に踏み外していたという点である。

 著者が今なお在籍しているオリンパスは、裁判とは無関係なところで、巨大なコンプライアンス違反事件を起こし、著者への報復にも動いた当時の社長が逮捕されるという前代未聞の不祥事にまで発展し、現在、別会社の資本注入による会社再建の道を模索中である。

 オリンパスにおけるこれら二つの事例が同根であるという著者の指摘は当たっていると思う。
 私達が体験した事例もまた、組織の私物化という同じ病根に原因を持っていると感じざるをえない。

 著者の闘いは一審敗訴、二審で逆転勝訴ののち現在、最高裁に舞台を遷している。
 現在の司法状況からして、予断は許されない。
 誰もが当事者になりうるコンプライアンス違反事例の、たいへんわかりやすい事件であるだけに、著者の勝利を願わずにいられない。

(ISBN978-4-334-97681-1 C0095 \1400E 2012,4 光文社 2012,6,4 読了)