本多勝一『非常事態のイラクを行く』

 雑多なテーマに関する文集という感じのこのシリーズにしては珍しく、「湾岸戦争」後のイラクにおける、劣化ウラン弾被害の実態を掘り下げて取材したルポ集。

 劣化ウランとは、ウラン鉱石から核燃料に使われるウラン235を取り出したあとのウランで、核反応を起こすことはないが、比重が重く、超硬質で装甲板を貫通するため、現状では主に砲弾として使用されている。

 加工によって、プルトニウム239に変化するため、高速増殖炉(という幻想の原子炉)の燃料に転用を予定して、「日本」国内にも貯蔵されている。

 もちろん、放射能を帯びており、着弾時に飛散する微粒子を吸い込むと、内部被曝する。

 戦争終了後、イラクでは、放射性物質に起因すると思われる白血病や奇形児が激増した。
 劣化ウランと健康被害の因果関係について、疫学的な証明は確立されていないようだが、事実は雄弁であリ、本書には、言葉を失うような悲惨な事例がいくつも報告されている。

 本書の取材が2002年春だが、アメリカは2003年春に再びイラクに侵攻し、フセイン政権を倒して、傀儡政権を作ったが、占領統治を全うできずに撤退を余儀なくされた。
 2003年の「イラク戦争」でも、劣化ウラン弾が再び使われただろうから、イラクにまたも放射性物質がばらまかれたことは確実だ。

 イラクの民にとって、アメリカは解放軍でなく、永久の放射線被害をもたらした疫病神だった。
 それはイラク人の誰もが認めているだろう。
 この事実は、末永く語り継がれ、アメリカはいずれ、報復を受けるだろう。

 兵器としての劣化ウラン弾はまだ、使われ続けている。
 戦争の是非についてはともかく、使用者の側の健康さえ損なう放射性兵器の使用を続けていいはずがない。

(ISBN4-02-257805-X C0036 \1100E 2002,12 朝日新聞社 2012,3,23 読了)