五味文彦『日本の中世を歩く』

 ずっと以前には、在地の史料が少ない中世は、今ひとつ掴みどころのない時代という偏見を持っていた。

 歴史のバックボーンは社会構成史だと思っていた時代には、中世史を学ぶ意義についてさえ、疑問を持ったことがあった。

 しかし実のところ、中世は、人々が生き生きと生活していた、じつに魅力ある時代である。

 在地の史料は少ないが、歴史は文献にのみ痕跡を残しているものではない。

 文献史料は、それが残っていること自体が一種の作為なのであり、それを頭に入れておかないと、過去の人の作為の術中にはまる。

 金石文も同じである。

 本書にとりあげられている中世遺跡は、著名なところばかりであるが、それだけに、中世という時代を知る上で基本となるような史跡地ばかりであるうえ、関連する著名史料の解説もついているから、これらの地を訪れる際には、予習のために必読の本と言えるだろう。

 本書にとりあげられている史跡のうち、すぐにでも出かけてみたく感じたのは、足利学校だった。
 足利市内の織姫山に行ったことはあるが、草雲美術館を見学した記憶はあるが、足利学校自体をしっかり見ていない。

 政治とは距離をおき、若者たちが静かに真剣に学ぶ場所だったというその場は、かつて毎日通った大学図書館のような雰囲気だったのだろうか。
 それを、追体験してみたい。

(ISBN978-4-00-431180-5 C0221 \700E 2009,3 岩波新書 2012,3,2 読了)