北島万次『秀吉の朝鮮侵略』

 文禄・慶長の役(朝鮮側でいう壬辰倭乱)に関する概説。

 この戦争については、藤木久志『日本の歴史15 織田・豊臣政権』(小学館 1975)に、要点がまとめられていたと記憶する。

 本書は、朝鮮側の史料を駆使して、主として戦闘の経過をやや詳細にまとめている。

 朝鮮侵略戦争は、結果的に、豊臣政権を滅亡に追い込む致命的要因となった。

 藤木前掲書には、豊臣秀吉がこの戦争を決意した要因は、麾下の大名たちを統制し続けるためには、軍役を賦課し続ける必要があったからだという説明がされていたように記憶する。

 権力構造からいえば、そのような事情があったのだろう。

 改めて本書を読んでみると、秀吉による朝鮮・明への侵略には、さほど荒唐無稽な妄想とも言えない現実味があったことがわかる。

 明帝国は当時、財政危機にあり、朝鮮救援を全うしはしたが、戦後半世紀で滅亡する。

 倭軍と戦う戦術・戦略にも、死角が多かった。

 朝鮮軍とて同様で、李舜臣のように優秀な指揮官のもとで勝利することはあっても、倭軍へに対する統一的な戦略はなきに等しかった。

 面白いのは、倭軍もまた同様だった点で、加藤清正と不仲だった小西行長が、朝鮮側に加藤軍の作戦情報を通報した事実もあるらしい。

 このように見てくると、この戦争において決定的な役割を果たしたのは、朝鮮各地で蜂起した義兵軍だったようである。

 朝鮮民衆にとって、大きな災厄だったこの戦争は、東アジア全体がカオス状態だった時代的所産でもあったのだが、その時代を生き延びたのは秀吉権力でも明政権でもなく、朝鮮国だった。

(ISBN4-634-54340-0 C1321 P800E 2002,7 山川出版社 2011,11,9 読了)

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