中村修也『平安京の暮らしと行政』

 平安京における行政の実相を記した書。

 史料的制約があるから、もちろん、平安京における暮らしをあらゆる面から詳細に描いているわけではない。

 行政というと、自分などは、制度の変遷を書くことになってしまうのだが、制度の変遷史が歴史だというわけではない。

 制度が変わるのは、政策的意図によって変わる場合もあれば、それまでの制度が民衆の現実に適合しなくなったり、民衆の抵抗によって変更を余儀なくされる場合もある。

 制度の最前線が行政の現場であり、そこに歴史的な問題が現れるのである。

 本書には、左京に比して右京が荒廃していった現実や京都内の行政を担当する「京職」の職務内容や、具体的に区画内の秩序や清掃などを管理する坊長の勤務実態などが描かれている。

 また、貴族などが邸内に水流を引き込んだり、排水したりすることにより、京内の水路が荒廃していたことや、禁じられていたにもかかわらず、京内に水田が拡大していったことなども記されている。

 紀今守という能吏は、本書で初めて知った。能吏は、おそらく、歴史に名を残さない。
 下級官人の勤務実態や彼らの仕事ぶりが具体的にわかれば、平安京がよりビビッドに感じられるのではないだろううか。

(ISBN4-634-54100-9 C1321 \800E 2001,7 山川出版社 2011,10,26読了)