藤原良章『中世のみちと都市』

 中世の道と橋に関する概論。

 とくに、橋について詳しい。

 よく山を歩くので、道に橋がかがっているのは、当たり前とは思っていない。

 業務で杣道に丸太の橋をかけることもあるが、それなりに労力のかかる仕事である。

 街道となると、川の幅も広くなるから、丸太橋をかけるようなわけにはいかないし、何より丸太橋では歩きにくくて、危険である。

 橋桁を設けて、木の板で橋をかけるとなると、土木技術に加えて、製材技術や大工の技術が必要となるから、誰にもできるわけではなくなる。

 道は、通行の場に限られず、商売の場であり、布教の場であり、生活の場でもあった。

 さらに、道の通行権は、権力者の独占するところだったから、道は政治の道具でもあった。

 街道にれっきとした板橋をかけるには、費用もかかるから、宗教者による勧進か権力者の命令によるしかなかった。

 絵巻物に描かれている橋は、小さくデフォルメされていることが多いようだが、実物はかなり立派なものだったらしい。

 残念ながら、中世の道や橋の遺構はほとんど現存しないが、関東地方であれば、鎌倉と在地とを結ぶ街道には、中世の石造物や「二枚橋」などの地名が残っているらしい。

 勤務先の近くにも、「斎戸橋」と呼ばれる地名がある。

 これは、村の入口を示す地名らしい。

 中世以来の地名とは限らないが、由緒ある地名であることに違いはない。

 考えてみると、地名に関するきちんとした学問的整理は、ほとんど行われていないのではないかという気がする。

(ISBN978-4-634-54070-5 C1321 P800E 2005,9 山川出版社 2011,10,7 読了)

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