小出裕章『原発はいらない』

 小出氏の、福島第一原発の事故に関連する発言集。

> 今回の事故で明らかになったことの一つは、原発に関しクールに見ることのできる、小出氏や飯田哲也氏のような専門家がいなかったら恐ろしいということだ。




 原子力発電の仕組みについて専門外の、われわれ一般民が、事故の問題性や今後の展望について正確に知ることは、ほぼ不可能である。
 しかし、問題への対処は、実際のところ、各個人の「自己責任」に任されている状況である。

 本来であれば、データを知る立場にある政府や東京電力が、すべてのデータを公開し、データの持つ意味について十分に説明しなければならないはずだ。

 しかし、株式会社である東京電力にとって、本質的に重要なのは株主である。
 会社の利益に反する行為は、株主に対する違背行為である。
 今どきの自由主義経済のモラルは、人倫よりも何よりも、株主の利益追求を至高の目的とする。
 とにかく、モウカレバヨイのである。

 東電が、自社の損になるデータなど、強制されなければ、出すわけがない。

 政府は営利団体でないのだが、自分たちが国民の代表であるという意識より、統治者としての意識がまさっているから、下手にデータを出すことによって発生が危惧されるパニックを、極端に恐れているようだ。

 しかし、データを出さないことによって、国民の不信感は増大し、より深刻なパニックを招来するおそれがあるだけでなく、放射能被曝をも防ぐことができず、結果的に政府の責任によって健康障害を招来する可能性がある。

 いわゆる「原子力村」に属する人々の中には、意図的ではないかと疑われるほど、「専門家」の立場から、明らかに嘘である言説をまき散らしている。
 例えば、放射線防護の「専門家」である山下俊一氏は、「放射線の影響はにこにこ笑ってる人には来ない、くよくよしてる人に来る」と言ってるそうだが、こんな戯言をいくらなんでも、子どもだって信じないだろう。

 小出信者ではないつもりだが、氏の明確な説明に、非常に感謝している。

(ISBN978-4-7790-6048-9 C0295 P838E 2011,7 幻冬舎ルネッサンス新書 2011,8,30 読了)