江口義春『故郷の灯は消えて』

 徳山村の暮らしや動植物について、縷々記した本。
 民俗関係だけでなく、移転に伴うできごとや補償交渉をめぐるあれこれについても記されている。

 行政やダム事業者にとって、徳山村にダム建設を承諾させるのは、ちっともむずかしくなかったようだ。この点については、『浮いてまう徳山村』『徳山ダム離村記』に詳しい。

 それにしても、山村は、知恵の宝庫だった。

・トチの木は救荒食糧をもたらす神の木として大切にする。
・言い伝えは本当であり守らないと災難にあう。
・川狩り人足は大きな収入だったから川を大切にした。
・正月のご馳走として鰊のなれ寿司を作った。

 これらすべては、ダムのために消滅した。

 徳山村には、縄文時代の遺跡が二十数ヶ所も存在したという。

 縄文遺跡が出土するところは、この列島に暮らし始めた人々が最初に住みついたところである。
 当然ながらそこは、この列島の中で最も生活条件のよいところだった。

 ダムに沈んだ縄文遺跡といえば、三面ダムが有名だが、秩父地方でも、合角ダムに沈んだところは西秩父一帯の集落群の中心的存在だったらしい。

 権力と少々のカネに負けてすべてを投げ捨てた村民、狡知を弄して列島をめちゃくちゃにしてしまった行政者の罪は深い。

( 1989,3 ブックショップマイタウン 2011,5,16 読了)